抄録
本稿は、中国の南西部に居住している徳宏タイ族の人々が、近代化への憧れと旧来の生活様式への愛着とのはざまで、そのどちらかに特化することなく中庸の日常的実践を模索する様子を明らかにしようとするものである。中国は生活の近代化を政治的な課題としており、その具体策の一つとして葬送習俗の簡素化を進めている。しかし徳宏タイ族の人々はポイ・パラという儀礼に死者供養の意味を付与することで簡略化された葬送儀礼を事実上補完している。ポイ・パラは「葬送儀礼」と見なされることもなく、独特の「伝統文化」としてエスニック・シンボル化することもなく、ローカルな「仏教儀礼」として地元の人々と一部の研究者に知られるのみである。ポイ・パラは近代化の受容と抵抗をめぐる表象の政治から離脱することで直接的な政治的介入をまぬがれ、徳宏タイ族の人々が彼らなりの方法で死者を弔える空間を提供している。「宗教」「伝統文化」「葬送儀礼」といった公的な概念表象による表面的な生活の再編成としての近代化が進行する中、ポイ・パラはそうした概念表象をすり抜けながら黙々と実践される生活の領域の存在を示唆する。そしてそのような領域においてこそ、政策としての近代化とは異なるレベルで生活の変容が起こっていることが予想されるのである。
寄稿の翻訳タイトル | Modern Representations and Daily Life Practice in China: The case of the Dehong Tai funeral reform |
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本文言語 | 日本語 |
ページ(範囲) | 1-20 |
ページ数 | 20 |
ジャーナル | 民族學研究 |
巻 | 67 |
号 | 1 |
DOI | |
出版ステータス | 出版済み - 2002 |